第3回目、常軌を逸した連続殺人鬼と、管理人の女性の会話シーン、「サブテキスト(心の中のセリフ)」を意識し、カメリハ・オリジナル『2チームのノーカントリー』スタート! (左から)じんクン&あかねちゃんチーム、ひろみさん&高原先生チーム 今回は、性別に合わせ「殺人鬼」役をじんクンと高原先生、「管理人の女性」役をあかねちゃんとひろみさんに演じてもらいました。 ・セリフは、言いやすいようにアレンジ。 ・じんクンと高原先生は、同じセリフのくりかえしです。「冷酷非道で血も涙もない」キャラをどうやって表現するか。 ・あかねちゃんとひろみさんは、突然やってきた怪しい男にどう対応するか。(トレーラーパークの管理人は、日本でいうとマンションの管理人に近いです。) ◎ポイント◎ 台本に書いてあるセリフを言う前に、サブテキスト【心のセリフ】を、 心の中でつぶやくと、ビミョウな表情が表現しやすい。 例えば、管理人女性のセリフ「聞こえませんでした?」の前に、 「【なんだこいつ?】聞こえませんでした?」と、【】内の、心のセリフを付け足すと、 まばたきしたり、眉がぴくっと動いたり、鼻がふくらんだり、唇がひらいたり、ビミョーな表情が、 おのずとついてきます。映像では、とくにアップめのカットで効果大。 じんクン、でかいので、立ってるだけでもうこわいっ。表情もクールにつくりあげ中。 あかねちゃんは、動きを計算しながら、演技をつくりあげ中。 立っても座っても美しい姿勢とポーズに注目。 悩めるひろみさんに、高原先生アドバイス中。 ひろみさんの熱心な姿勢に心が打たれます。(こっちが勉強になること多し) ドライリハのあと、さっそく、 演じて→撮って→観て→ディスカッションがはじまりました。 ●まずは、じんクン&あかねちゃんチームを見てみましょう● ●Take1 おふたりともドライリハを何度も重ね、息ぴったり。 じんクンは、ドアをあけ女性を見つけると、迷いもなく近づき、ほぼ見続けたまま演技をしています。 「モスを殺してお金を奪い返す」という気持ちを集中させています。こわっ。 あかねちゃんは、発声、滑舌、姿勢がバツグンに良く、所作がいちいち美しい。 指の先まで演技が行き届いています。小道具も使いこなし、きちんと整理された動きで 表現しています。 一か所注意点。 ドアが「バタン」と閉まるのと同時に、セリフを言っているため、音がかぶってしまうよ!と、高原先生から指摘がありました。 おっしゃるとおり。ホントの撮影現場では、音声さんからNGが出ます。 ●Take2 高原先生からのアドバイスが生かされ、Take1よりキンチョー感倍増。 アドバイスの内容は、以下のとおり。 じんクンには、サブテキストを心の中でもっと強くつぶやくこと。「ほんとに知らないのか?」「暴力で聞き出したろか?」「殺したろか?」など。 あかねちゃんは、それを感じ取ることでより反応しやすくなり、さらに自分のサブテキストも強くつぶやき、より一層、キンチョー感が増しました。 あかねちゃんのように、反射神経もよく、滑舌もよい役者さんは、反応が早いです。 あまり早いと、いわゆる「セリフまち」に見えることがあるので、修正してもらいました。 今回のように、キンチョー感をただよわせるシーンでは、まずは相手のセリフをしっかり聞き、 サブテキストをより意識すると、観るひとも感情移入しやすくなります。 Take1より、はらはらさせられるっ。 また、じんクンは「一歩前に出る」という動きを自ら追加してくれました。 シンプルなコトですが、これが効果大。当然、アップになるため、よりこわいっ。 ●Take3 あかねちゃんから、最初から「うわ、ヤバイ人がきた!」という表現にした方が、いいですか? と質問されました。 「なんかへんなヒト →ちょっとヤバイひとかも? →かなりヤバいひとじゃない?!」 と、半信半疑で、疑、が濃くなる方がいいと思います。つまり、今のままでOK。 今回の「ノーカントリー」では、殺人鬼に出会う「フツーのヒト役」の役者さんも、 ほぼそんなかんじで演技を統一しているように見えます。 日常生活でも、ぱっと見、ヤバそうなヒトに声かけられた時、あからさまにビビらず、 目はクギづけのまま、むしろ平常心をよそおいつつ、様子をうかがうことの方が多いですよね。 (ふつうに歩いてたら、暴力団風?のヒトに、道を聞かれた時の反応を想像してみてください) ・・・というわけで、おふたりとも、どんどんこなれて、キンチョー感がより自然に見え、お見事。 言うは易しだけど、実際に修正するのは、たいへんです。 ●続いて、ひろみさん&高原先生チーム● ●Tkae1 これ撮り終わって、いきなり、D要望!! ひろみさんに、悪気はないことは、もーーーちろんわかっています。 が! 心をオニにし、「エア小道具ゼッタイ禁止」令を出しました。 そもそも、ドラマや映画は、それ自体が「架空の作り話の大ウソ」です。 役者さんはその大ウソを、いかに「ホンモノに見せるか」という仕事です。 観客は、ホンモノに見えるから、泣いたり笑ったり怖がったり感動したりします。 そこに、小ウソが映ると、大ウソは一気に覚めます。 なので、ないパソコンを使うフリなど、架空の小道具はいけません。 このカメリハでも。 (架空の小道具を使いこなせるのは、熟練した落語家さんだけ) 小道具の話はおいといてええ、 ひろみさんは「あやしいヒトが来た場合、直視していた方がいいのか、視線を外した方がいいのか 迷いました」と、おっしゃっていました。 先ほども書きましたが、ヤバそうなひと、あやしいヒト、こわそうなヒトがあらわれた場合、 身のキケンを感じるため、目はクギづけになっている方がいいです。 視線をはずして、他のことをするのは、「相手の正体がほぼわかってる」時の反応です。 あちこち動くひろみさんの目線を、編集でなるべくカットし、2人のアクションを合わせましたが、 高原先生演じる殺人鬼は、「ヤバそうなヒト」に見えず、 せいぜい「文句ばっかいいに来る近所のおっさん」に見えます。 これは、高原先生の演技のセイではありません。 演技を受ける側の、ひろみさんのリアクションのためです。 ◎すべての演技に共通するポイント!◎ かけあいの演技は、「受ける側」の役者さんのリアクションで、印象が大きく変わる! 仮面ライダーのキックが、キョーレツに見えるのは、ショッカーがハデに吹っ飛んで、 かなり痛がる演技をするからです。(たとえが古すぎる) というわけで、Take2から、そこを修正。 ●Take2 ひろみさんの演技を、かなーーーーり、変えてもらいました。 D要望で、「ひろみさんは、マンションの管理人です。見知らぬ男が現れた時、 住人を守らねば、という気持ちを、強く表現してください」とお願いしました。 まずは、自分の役柄は何であるかを、しっかり考えると、演技の方向性が決まってきます。 あたまで考えるだけではなく、実際に体を動かし、鏡を見ながらやってみましょう。 「なんやこのおっさん?」「そんなこと教えられるか!」など、サブテキストも忘れずに。 ●Take3 Take2、Take3とも、ずいぶんキンチョー感がアップしました。 小道具のメガネも「なぜ外したか」という理由を、もたせていらっしゃいます。 小道具は、わけもなく使ってはいけません。 きっぱりと断る演技も、「管理人の立場なら、そうするわな」と、観る人を納得させます。 実は、 高原先生ぐらいキャリアのある役者さんは、いったん「このタイプでいこう」と、役作りをすると、 演技に安定感があるため、Take1~Take3までそれほど大きく変わりません。 むしろ本物の撮影では、何度も同じ演技をくりかえさなければならないため、それが体にしみついている役者さんは、Take1の時点で「ヤバイひと度合い」は、ほぼマックス。 (もちろん、動作や表情をビミョーに変え、自分でダメ出ししてらっしゃいますが) 「かけあいの演技は、受ける側の役者さんのリアクションで、印象が大きく変わる」 これを知らない視聴者のカンチガイで、正しい評価を得られない役者さんは、たくさんいるように 思います。 さて話は戻りますが、高原殺人鬼は、すべてのセリフを言い終わり、部屋を出ていくまでの無言の間に、2度にらみ、相手役のひろみさんが、リアクションするキッカケを作ってくれているのがわかりますか? 私は編集で、そのタイミングでカットし、2度の切り替えしカットをつなぎ、予告編と同じカット割りにしています。 「カット割り」があらかじめわかっている場合において、映像慣れしている役者さんは、 無意識に「カット点」を作ってしまうことが体にしみついているため、 編集室では「編集しやすいわ~」と、監督や編集マンに喜ばれます。 おっと、編集マンを喜ばせるためにやってはいかんよ。 あくまで、気持ちを込めた演技を優先に! また、両チームのTake1の演技も、決してまちがいではありません。 「映画全体を通して見ると、あまりにも怖すぎるから、Take1の方がいいんじゃない?」 と思う 監督もいるかもしれません。 いや、きっとたくさんいます。 (私が監督だったら、エアパソコンはさておき、Take1のひろみさんのキャラを、 どこかに入れたくて、むりやり1シーンを追加するかもしれん。かわいすぎる。) だから正解の演技はありません。演出も。 正解はありませんが、自分の役はどういう立場なのか、また、このシーンで伝えようとしていることは何か、を判断して演技をすると、正解から大きくはずれないと思います。 ●おまけ さて、じんクンと高原先生が、決定的に「逆」の動きをしている箇所に気が付きましたか? 会話が終わり「ふりかえって部屋から出ていく」ところ、ふりかえる方向が逆です。 カメラ位置は、2人とも同じく、本人のななめ右前なのに、 じんクンは、左回転。 高原先生は、右回転。 高原先生は、必ず「カメラのある方向に体を向ける」という、長年の習性が身にしみついているため、無意識に右回転しているのです。←本人も気づいていなかった。 これ、他の役者さんで実験してみたのですが、同様。 わざとカメラ位置を変更しながら、ためしたところ、何度やっても、必ずカメラのある方向にくるっと回転するんです。 爆笑。電球に集まってくるガのごとし。 「でも、バビエル・バルデムは、左回転じゃん」 その理由は、カメラは本人のななめ右前にありますが、 照明が、本人の左側にあるからです。 左回転しないと、顔に照明があたらず、目に「きらーん」という光が入りません。 それもふまえ、「ノーカントリー」の予告編を、再度みてみましょう。 バビエル・バルデムの左側(画面の右側)から、照明があたってるのわかりますか? 役者さんの動きは、カメラの位置だけではなく、ロケ場所の環境、照明の位置などなど、 ありとあらゆる制約で決められることが多いです。 せっかくこっちむきで演技練習してきたのに、現場で逆向きに修正された~、 と慌てないようにね。 一見簡単そうで、難易度の高い演技、おつかれさまでした。
みなさん休憩もせず、約3時間ぶっとおしで、集中度高すぎっ。 ひろみさんの体力と気力に、また脱帽。 じんクンとあかねちゃんは、プロの役者さんです。どっかでみたことあるでしょ? 次回は「エージェント・ウルトラ」です。 どこでも見かける、フツーのコの主役を演じていただきます。(高原先生はカノジョ役) 性別も年齢も、クセも体形も、しゃべりかたも、自分の持ち味をフルに生かして、 演技してみてください。
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Vol.24「英雄の証明」
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