初参加・ほぼ初心者・だけど本気!の3人が、「愚直な人」役に挑戦。 冷静な役人のするどい質問と、まさかのウワサにどう反応するか。 カメリハオリジナル「英雄の証明」スタート! (左から)「愚直な人」・・・ゆうきさん、たまきさん、りんたろうくん 「冷静な役人」・・・じんさん イランの巨匠アスガー・ファルハディ監督。秀逸な脚本で、万国共通で普遍的な、人間の愚かさや、社会の危うさを 描いています。ドキュメンタリータッチな撮影方法は、見る人をその場に居合わせるようなスリリングさ。 ~演じてもらうキャラ~ 3人が演じる「愚直」な主人公ラヒムは、やさしくまじめでいい人なんだけど、人に利用されやすい。要領が悪く、 気転もきかず、見ていてイラっとするタイプです。「愚直」という言葉が誉め言葉にならない典型的な男。 ~役作りのポイント~ まずは「主人公ラヒムの置かれている状況」を確認です。以下を書き出し、みんなで話し合いました。 ・元々の職業は何か? ・なぜ借金したの? ・どこで借金したの? ・だれが保証人? ・元ヨメはどうしたの? ・ムスコはどんな子? ・借金はいくら? ・拾った金貨の価値は? ・チャリティ協会で集まった金額は? ラヒムの借金はイランの通貨「1億千万トマン」ですが、日本円にし、さらに物価で換算すると、約4500万円! そんな状況で、拾った金貨は、約2200万! 私だったら絶対パクります。返すもんかっ。 なので、ちゃんと返したのはいいことなんだけど・・・。 国、宗教、文化、通貨が違っていても、人間の本質はそんなにかわりません。 こういった状況を理解した上で、役の気持ちに寄り添って理解することが大切です。 では「愚直」な性格は? 映画の冒頭から、もう現れています。 義理の兄に会うため、建設中の建物のながーい階段を、えんえんと登っていきましたね。 下から誰かに呼んでもらえばいいのにっ。イラっ。 監督は、あのやたら長いカットで、くそまじめだけど要領の悪いラヒムの性格を、冒頭から見せたかったのではないかと 思います。 ~設定~ 映画のストーリーが「転換する」大事なシーンです。 英雄扱いで時の人となっているラヒムは、当然仕事もらえるものだと思ってやって来ますが、 この映画の登場人物の中で、唯一まともで冷静な役人の対応により、人生の歯車が狂っていきます。 じんさんが、この大事な役をどう演じてるか、完成版でしっかり確認してください。 みんなに近い状況に置き換えるとしたら、もし、この面接が「大手芸能事務所との面接」だったらどう? ここと契約できれば、借金4500万円は、CMや映画出演で取り戻せるチャンス、家族も楽させられる、ではどうでしょう? 今回はセリフがふだんの約3倍! セリフふっ飛びつつも、各自映像を見て修正しながら、変貌しました。 それぞれの1Sで、Take1とTake2を比較してごらんください。 ●りんたろうくんTake1 ●りんたろうくんTake2 りんたろうくんは、Take1での「ムダなからだの動き」を、Take2で見事にコントロールしました!えらい。 そして、まるで「バイトの面接」のようだった演技は、4500万円の借金がある若い男の「人生を変えるかもしれない 就職面接」に変わりました。 主人公のまじめさと、必死さ、そして意外な方向に進んでいく展開を、自分の年相応に受け止め、 するどく突っ込んでくる役人に対応しています。 ただセリフを言ってるだけだったのが、じん役人の言葉をしっかり聞いて心と体が反応しています。 「ウワサがあるんですよ」「ウワサ?」で、持っていたお茶を脇に置いています。 「お茶飲んでる場合ではない、しっかり話を聞こう」という態度を示しています。 こうした、ちょっとしたしぐさは、言葉よりも、多く語ります。 演技は「フリ」ではなく、「真実」を演じなくては視聴者にバレます。(※りんたろうくん「蛍光灯」を思い出してね) 特にリアルさを求められるジャンルの映画やドラマでは、ささいな目の動き、まばたき、口角の上げ方、小道具の使い方、そのひとつひとつの動きは心とリンクしてきます。 日ごろから人間観察をして、ちょっとしぐさや行動を、頭の中にメモって、ためておきましょう。 また映画やドラマを観ながら、俳優さんたちのちょっとしたしぐさが、どんな効果をもたらしているか研究しましょう。 ●ゆうきさんTake1 ●ゆうきさんTake2 演技経験多少ありのゆうきさんも、Take1では、セリフ言うのに必死で会話になっていませんでしたが、 Take2では、じん役人の言葉に反応し「思いもよらないことを言われうろたえる」演技に変わりました。 仕事もらえるもんだと思い込み「なんでもできます!」と、やや浮かれていた笑顔が、じん役人の一言一言に、キチンと反応し「へ?」「は?」「どういうこと??」と、変化していくのがよく表れています。 「作り話」という言葉に反応し「ウソってことですか?!」と、うろたえ感マックスにもっていった演技設計は、 お見事! このように、主人公が心が大きく動くきっかけとなる、相手役のセリフを、脚本から事前に読み取っておくと、 演技にメリハリがつきます。 一方、じん役人が、ばんっ!とペンを置いたのを見て、驚いています。 演技設計はがちがちに固めすぎず、相手役の出方に柔軟に反応できるようにしておくのが大事。 やればやるほど、こなれてくる手ごたえを、ご自分でもわかっていると思うので、貪欲に練習するのみ。 こういったシーンは、セリフを聞き慣れてしまわないよう、何度やってもまるで初めて聞いたかのように演じられるようにしてください。 そしてゆうきさんの最大の武器は、くりくり動く大きな目! 目で演技できる人は、映像演技ではかなり効果的です。開いたり細めたり、大いに使ってみましょう。 一方、発声は問題あり。 これは3人共通の問題ですが、腹式呼吸をマスターし「響く声」をトレーニングしてください。 日常でも腹式呼吸でしゃべっている俳優さんは、けっこういらっしゃいます。 ●たまきさんTake1 ●たまきさんTake2 超初心者・初撮影のたまきさん、Take1では「素」の本人のままで、演技らしきところは見られません。 セリフも入っておらず、言ってるだけ・・・ですが・・その素朴さが主人公のキャラと妙にリンクし、好印象。 Take3は、本人のキャラを生かしたまま「無邪気でのんき!にぶいなコイツ~!」という、独特のイラっと感を、 見る人に与えました。まさに、たまきバージョンの変化球ラヒムです。 無邪気な笑顔でお茶を飲み ➡何を言われてもすぐにピント来ずまだ笑顔 ➡後半やっと疑われてることに気づき ➡最後に頭に手をのせて軽く「あちゃ」 まるで、先生に怒られているのに、なんで怒られているかわかってない小学生のようです笑。 まばたき、目線、発声など、技術的に練習をつまなくてはいけないことは、山ほどありますが、 たまきさん持ち前の個性、体系、笑顔を生かし「ステレオタイプではない役作り」を目指してください。 何度も書いていますが「自然な演技」とは、「素」の本人のままで演じることではないので、そこは誤解のないように。 残念ながら、編集した完成版では、「無邪気にお茶を飲む」行動は、切り返しのじんさんの撮影の時にやっていなかった ため、動きがつながらず、使えませんでした。 そして、セリフも一か所飛んでいたため、Take1の画を使ってあります。 「頭に手をのせるしぐさ」は、ちゃんとつながりました。 映像演技では「何度やっても、切り返しのカットでも、同じタイミングで同じ動きをしなくてはいけない」という、 映像特有のルールを再度確認してください。 今回、一番参考になるのは、じんさん「ペンを置く」「コップを持つ」「お茶を飲む」という動作です。 切り返しのカットでも、すべて同じタイミングで同じ動作をしているため、まるで2カメで撮影しているように、 編集でつながるのです。 コツは「このセリフの時にこう動く」と決めておくことです。もちろん心とリンクさせて。 自分の演技を見て、修正して、繰り返し、各自猛練習しても、いっこうにバテないZ世代。すごい体力~。 ちなみに、今回は、がっつり練習相手で、撮影一回しかできなかったじんさん。 3人の演技に合わせ、「役人」の対応を変えて演じてくれました。 りんたろうくんには、まじめそうな青年を諭すように。 ゆうきさんには、「この忙しい時に、うさんくさいのが来たな」とあきれつつ。 たまきさんには、イラっとくるのをあえて笑顔で交わし、おとなの対応で。 3人のTake2のカットと、相手役のじんさんの演技を編集した完成版を、じっくりごらんください。 ●りんたろう&じん完成版 ●ゆうき&じん完成版 ●たまき&じん完成版 相手役の演技(リアクション)が、いかに主人公を立てて見せてくれてるかわかりますか? 表情、発声、間の取り方、心と連動した動作、編集でつながる動き、ぜーんぶご参考に。 みんなからいろんな質問されましたので、まとめて回答しておきます。 Q.きんちょーしてしまう。 A.そのきんちょーを「リラックス」と「集中」にかえましょう。 まずは、まるで自分の部屋で没頭して漫画読んでるぐらいリラックスして、台本とセリフに没頭しましょう。 お母さんが「ごはんだよっ」呼びにきても、聞こえてないぐらい全集中。 そして、ご飯食べてても、運転してても、お経のようにすらすら勝手に口からセリフが出てきちゃうぐらいにして おきましょう。 そこまで準備しておけば、本番では、カメラの前、大物俳優の前、大監督の前、大舞台の上に立った時、きんちょーは、 快感に変わります。 またオーディションでは「自分を魅力的に見せる」から「役を魅力的に見せる」という本質に意識が向きます。 Q. 脚本読解で、自分の解釈がズレる。 A. 映画やドラマはほとんどが「起承転結」でできていることを確認しましょう。 (ハリウッドは3部構成、ま、同じようなもん) もらった脚本に、起・承・転・結のしるしをうち、黙読ではなく、声を出して読みましょう。 例えば、「英雄の証明」は、 起 =金貨を拾い、パクろうと思ったが、返却した。 承 =おもいもよらず英雄扱いされる。 転 =疑われる。どんどん悪い方向へ。 結 =再びムショへ。ダメ親父でごめんねムスコ。 こうして起承転結を整理し、実際に声をだしてセリフを読むと理解しやすくなります。 (俳優さんだけではなく、私もやってます) 分析したあと、その脚本のテーマやあらすじを、「3行で説明する」練習をします。 そのあと、登場人物の中でだれが一番悪い奴か?いいやつか? 被害者はだれか? など、ひとつひとつ掘り下げて いきます。 「月刊シナリオ」「月刊ドラマ」などに掲載されている脚本で、映画と照らし合わせながら練習するのが理想的ですが、 最初のうちはいろんなジャンルの映画をとにかくたくさん観て、分析することからはじめていいと思います。 とはいえ映画一本でも2時間かかりますので、 例えば、30分以下のショートフィルムで練習するのもいいと思います。 私が利用している「ショートフィルム専門」のサイトのリンク貼っておきます。 ●SAMANSA(サブスク/・月額250円) https://lp.samansa.com/ ●ブリリアショートショートシアターオンライン(無料・登録すると時々宣伝メールが来るけど) https://sst-online.jp/ どちらも、世界の映画祭で受賞した良質な作品ばかりで、短い中に濃厚なテーマやメッセージが込められていて、 見ごたえもあります。 でも、見てるだけじゃだめ。脚本読解の練習!と分析しながら。 Q.どんな劇団があるか知りたい。 A. 名古屋市の文化小劇場には、公演のチラシがいっぱい置いてあります。 興味がわいたチラシを片っ端から集め観にいくといいと思います。また、毎日のように公演に携わっている文化小劇場の 職員さんに、どの劇団がよかったですか?と聞いてみるのもおすすめです。 そして、やはり、映像より先に、舞台で実力つけるのが、理想的! 現在映画やドラマで活躍している実力派俳優さんのほとんどは、舞台出身です。 もっと言うと、監督の指導より先に、俳優さんから指導を受け、基礎をきちんと身につけるのが遠回りのようで近道。 それでは最後に「英雄の証明」の本編シーンを。 この役人の俳優さん、ものすごい印象的でいいわ~。 あと、すばらしい演技だったのは、手の平裏返したように態度が変わった、チャリティ協会の会長さん! みなさんおつかれさまでした!来てくれてありがとう! 初心者と言いながら、たった2回の撮影で変貌した自分たちを自画自賛してください。 指導に徹してくれたじんさま、ありがとうございました。 仕事の諸事情で、映像演技ワークショップ名古屋カメリハは、しばらくお休みさせていただきます。 また、再開のめどが立ちましたら、お知らせいたします。
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Vol.24「英雄の証明」
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