第15回目は、女優のようこちゃんが参加!必死に訴える社会的弱者と、マニュアル対応のお役所職員。リアルな演技って難しい~。カメリハ・オリジナル「私は、ダニエル・ブレイク」スタート! (左から)ようこちゃん、ひさえさん、みさきちゃん、じんくん 「リアル」とは、何ぞや。 今回は、子どもが小さいため働けず、生活に困窮しているシングルマザーのケイティが、給付金をもらうため役所に来るシーンです。 引っ越してきたばかりの町で、バスに乗り遅れ道に迷い、遅刻したことを「違反」とされ、 職員ともめはじめます。 必死に訴えるシングルマザーに、「規則ですから」と、血も涙もないお役所職員。 だれもが一度ぐらいは経験したことのある、あの対応です。 みさきちゃん、ようこちゃんは、「シングルマザー」で、 ひさえさんは、「介護離職で働けない女性」に変え、 「お役所職員」は、3人のローテーションに、じんくんが加わりました。 私の要望は、 「いつものように、会話っぽくセリフを言うのではなく、ぐっちゃぐちゃになっても、言い合いになってもいいので、リアルに!」です。 今回は、続けて見比べた方がわかりやすいため、 肩慣らしのTake1と、ラストテイクを、役者さん別につなげました。 まずは、こちらのキャストから。 ●シングルマザー:みさき 職員:ようこ 主任:ひさえ Take1を見て、それぞれに出した要望は、 シングルマザーみさきちゃん→ もっと内面の怒りを掘り下げて 職員ようこちゃん→ ムキにならず「5時に帰りたい」だけの、お役所職員に。 主任ひさえさん→ 民間企業のエライ管理職みたいな威圧感ではなく「めんどくせー」感で。 Take3で、みさきちゃんの印象が変わりました。 私がこれまで会った、お役所職人の、ムカつく共通点は、 「本来の仕事の目的よりも、規則を守ることの方が大事」 ではないかと思えるのです。 (注:もちろんそうじゃないヒトもいます!) みさきちゃんは、そうとう悩んで、試行錯誤しました。 「バスに乗り遅れたこっちも悪いかも」とちらっと思ったそうです。(→よいこのみさきちゃんらしい) でもね、この場合、本質的なことを考えてみましょう。 「お金がなく追い詰められてる母親と、お役所の規則と、どっちが大事か。」 そんなもん、母親にきまってるやろ、と思ったら、 〇映画が(監督が)伝えたい本質的なことを、自分の中で「正当化」する。 (脚本を読むときも、そこを押さえる) 映画の中で、ケイティが、食料配給所で、空腹のあまり、思わず缶をあけて食べてしまったという、ショッキングなシーンがありますが、あれは、ケン・ローチ監督が、シネハンに行ったときに、実際に見たことだそうです。 もちろん、だれもが、ケイティほど困窮したシングルマザーを、体験したことありませんが、 みさきちゃんなりに、いろんなことに置き換えて、必死さを出してくれました。 Take3の方が、その必死さにくぎづけになります。 「リアル」と思ったみさきちゃんの演技は、 相手のセリフに、再度かぶってくるところと、 時々、ぼーぜんと、言葉を失うところです。 「リズムと、間」が、効いています。 必死に大声でセリフよりも、ぴたっと言葉を失うことで、 心の声(サブテキスト)が、表情に現れてきてます。 役交代。つづいては、この組み合わせ。 ●シングルマザー:ようこ 職員:ひさえ 主任:じん Take1を見てから、自己NGと、私が出した要望。 ようこちゃん→ 自己NG「いかーん、両手がアメリカ人ぐらい動きすぎ!(笑)」 私の要望→ 「ほんとだ。落ち着けアメリカ人(笑)」 ひさえさん&じんくん →「やなかんじ!そのままで、聞いてますと言いながら、全然話聞く気なしで」 Take2では、みなさん反映してくれました。 ようこちゃん、Take1よりTake2の方が、わなわな感と、深刻さが増してます。 また「このひとじゃ話にならないわ」のあと、(一見、やさしそうな)主任が現れた時に、このひとならきっとわかってくれるかもと、気持ちを仕切り直し、話そうとしている演技が、表現できています。 淡い期待を、笑顔でうらぎり、主任までもが、この態度。 ようこケイティは、焦燥感と怒りの対象が、お役所の対応ではなく、だんだん、じんくんそのものの態度になり、最後マジギレしてる。笑。 (じんくん、ムカつく男役、得意ワザになってるし。笑) では、このムカつくじんくん・・・じゃなくて、お役所主任が、耳をかたむけるようにするには、こういう 方法はどうでしょう? 〇具体的なことを「想像」して、セリフを盛る。 言葉を失う「間」を入れたみさきちゃんとは、逆の方法。 まずは、昨日から何も食べていない、という、お腹ぺこぺこ状態を、想像したうえで、 「訴える」から「責める」ように、 「子どもに与える食べものすら買えないのに、バス代の200円だって、キツイのわかる? バス乗り間違えて、やっと着いたら、今度は子どもが、トイレって・・・。 あなた、子どもいる? いないからわからないのよね? わざと遅れてきたわけじゃないでしょ! ちゃんと話を聞いてよ!」 ・・・みたいな、具体性のあるセリフを盛る。 もちろん、「バスを降りたら、今度は、目の前で、おばあちゃんが車にはねられて」 とか、ばればれのウソを追加してはいけませんよ。 ウソではなく、想像力を膨らませて真実味のある「あるある」をちょっと盛り、 自分の要求に、具体性をもたせる。 ようこちゃんvsじんくんの「一騎打ちの演技合戦」みたいになっちゃってもいいかも。 「相手に勝ちたいっ」というリアルな気持ちが、 そのまま、ケイティvsお役所職員、に置き換わるかもしれません。 ひさえさん&じんくんのお役所職員のお二人は、セリフの言い方に「あるある」感がありました。 全然、話聞く気ないのに、笑顔で、「ええええ」「うんうん」「はいはい」。 これ、そうとう、ムカつきますが、 時と場合によっては、コメディにも、使えそう。 ・ヒトが困ってるのに、やたら落ち着いて、正論っぽいこと言う。(映画はこれ) ・ヒトが困ってるのに、「迷惑なのよね」とあからさまに表情に出す。 いろんなパターンのムカつく態度を、シーンと役柄に合わせて使い分けてください。 役交代。 ひさえさんは、年齢にあわせ、シングルマザーを、介護離職者に変更してくれました。 ●介護離職者:ひさえ 職員:ようこ 主任:みさき Take1を見て、出した要望は、 ひさえさん →気持ちはわかりますが、とにかく、お、落ち着いて。椅子からカラダが浮いてるっ。 必死さをやりすぎると、リアルからどんどん離れ「そんなやつおらへんんやろー」になっちゃう。 ようこちゃん&みさきちゃん →いるっ!こういう役所の人! その調子で。 Take3、ひさえさんは、必死すぎて「手」が動かないように、荷物2つ持ち、後半は、やや落ち着きましたが、 欲を言うと、 リアル介護で疲れている人は、もう疲れ切っちゃって、大声だして怒る気力もないと思います。 弱っている上での必死さで、突然キレるのを織り交ぜると、情緒不安定なかんじが出て、 見ている方は、心が痛んでくると思います。 あと、元々、舞台仕込みの腹式呼吸で、声量があるため、意識して抑えてください。 ようこちゃんは、Take1とTake2だけでなく、1回目のみさきケイティの時とも比べてください。 「もう私、早く帰りたいんですけど・・・」感が、前よりリアル。 腕時計をチラ見し、早く帰ることしか考えてないし、ノートに何か書いて別のこと始めてるし。 大きく動くより、このように、さりげに、真顔で、こそっとやる方が効きます。 こういう、ちょっとした役の人が、後ろでこそこそと、地味ながらリアルな演技を始めると、見てる方は、 そっちが気になっちゃって、主役は食われちゃいます。 みさきちゃんは、おだやかな笑顔の上、適度に目をあわせず、てきとーにあしらってる感が、増しました。 私がこれまで遭遇した、ムカつくお役所の職員が、全員入ってて、リアル! さらに、主任がゆえに「こっちは、一日に何百人も、あなたみたいなひとの相手してますから」という、 こなれた感じがにじみ出てます。マニュアルっぽいしゃべり方が、いらっとくる。 ムカつくお役所職員の特徴を、おさらいすると、 ・会った瞬間、まず、私の足元からアタマまでパンアップで見て、以降、ほとんど目をあわせない ・うっすら笑顔で、ええええ、はいはい、聞いてない ・聞いてないどころか、別のこと考えてる ・「規則」「前例がない」「違反」というワードを、法の番人のように多用 ・しゃべり方は、ぶれずに、棒読み ふつーならNG出される「棒読み」も、こういう役で使うと、効果抜群です。 「リアル」とは、なんぞや。 その明確な答えは、出せず、ごめんなさい。今後の大きな課題となりました。 「これドラマ?ドキュメンタリーじゃないの??」と思うぐらいの、映画が数々あります。 なぜ、そういう演技ができるのか、探っていきましょう。 余談。 どんなシリアスな設定でもコントに見える、木村庄之助が、かつて一度だけ、 「すごくリアル」に、見えた、演技がありました。 そのドラマの役柄は、鹿児島県の田舎の農家さん。 シーンは、昭和初期ぐらい、ある裁判所で、その農家さんが、参考人として呼ばれ、 「こんなこと、話していいのだろうか??」 と迷いながら証言する、という設定でした。 いつもなら、コントになりそうなところ、リアルに見えたその理由は、 方言指導の先生に教えてもらった、鹿児島弁のセリフを、練習しても練習しても、 全然うまくしゃべれないまま、ついに本番の日がきちゃって、 「イントネーション、これでいいんだろうか??」 と思いながらしゃべっていたからです。 素じゃなくて、演技でやれっ。 さて、今回は、 「リアルとは何ぞや?」を探るために、4人に、2種類の実験につきあってもらいました。 ●ひとつめの映像がこちら、「コーヒーを飲む」。 いろいろな条件で、4パターン、コーヒーを飲む演技をしてもらいました。 だれの、どのパターンが「リアル」に見えましたか? お茶と間違えて、しいたけのダシ飲んだヒトがいますが、そういう時、 どんな反応したか、日常の記憶を思い出してみましょう。 ●もうひとつが、「金魚リレー」です。 みんなには、「その金魚100万円です、上手く運ばないとクビになるし、もう金魚、弱ってきてる。」 と、伝えました。 金魚、見えましたか? 実験につきあっていただいてなんですが・・・ ひさえさんっ、あっちで待っててと言うとんのに、みさきちゃんのところまで、 来ちゃったらいかんってば!笑! 私も、よーやる「順番待てないおばちゃん」。 ひさえさんのこれ、今回撮った中で、一番リアルに見えました。 みさきちゃん、振り返ったら、ひさえさんいるもんで、リアルに驚いてるし・・・。 おばちゃん役きたら、私やひさえさんを、取り入れてください。 それにしても、おもしろいわー、この実験映像。 役者さんが4人そろって、同じことすると、それぞれの個性がはっきり出ます。 黒澤監督がおっしゃてたとおり、「よせ鍋は、肉だけじゃ成立しない」。 いろんな個性がそろってこそ、ドラマが成り立ちます。 では、最後にもう一度、 映画「私は、ダニエル・ブレイク」。 実は、この映画、のめり込んで観ていたのですが、 あまりにもリアルすぎて、はっと、我に返っちゃったシーンがありました。 ダニエル・ブレイクの、うちの前の空地で、散歩中の犬が、うんちするシーンです。 あれ、どーやって撮ったのでしょう??? 犬「しゃがみ位置はここで、ちょっと回ってからうんちですね? わかりましたー」 みなさん、おつかれさまでした!
ありがとうございました。 次回は、もう来年。 2019年1月30日(水)、千種文化です。 お題は、コメディの傑作「フル・モンティ」! 演技のテーマは「狙わない笑い」です。 この映画見ると、けっこう、しあわせな気分になりますので、 年始年末にどうぞ。
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Vol.24「英雄の証明」
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